六の宮の姫君 芥川龍之介 日文原版

1、六の宮の姫君六の宮の姫君芥川龍之介芥川龍之介一六の宮の姫君の父は、古いの生れだつた。が、時勢にも遅れ勝ちみやばら宮腹な、の人だつたから、官もより昇らなかつむかしかたぎ昔気質(zhì)ひやうぶのたいふ兵部大輔た。姫君はさう云ふと一しよに、六の宮のほとりにある、いちちはは父母こだか木高に住まつてゐた。六の宮の姫君と云ふのは、その土地の名前につたやかた屋形よ拠のだつた。父母は姫君をした。しかしやはり昔風(fēng)に、進(jìn)んでは誰にもめあちようあい寵愛はせなかつた。

2、誰か云ひ寄る人があればと、心待ちに待つばかりだつた。姫君も父母の教へ通り、つつましい朝夕を送つてゐた。それは悲しみも知らないと同時に、喜びも知らない生涯だつた。が、世間見ずの姫君は、格別不満も感じなかつた?！父改袱丹剡_(dá)者でゐてくれれば好い?！龚D―姫君はさう思つてゐた。古い池にれた桜は、年毎に乏しい花を開いた。その內(nèi)に姫君ものしだ枝垂いつ何時間にか、びた美しさを具へ出した。が、頼みに思つた父は、年頃酒おとなさ大人寂を過ごした為に、突然故人

3、になつてしまつた。のみならず母も半年ほどの內(nèi)に、返らない歎きを重ねた揚句、とうとう父の跡を追つて行つた。姫君は悲しいと云ふよりも、途方に暮れずにはゐられなかつた。実際ふところ子の姫君にはたつた一人のの外に、たよるものは何もないのだつた。うば乳母乳母はけなげにも姫君の為に、骨身を惜まず働き続けた。が、家に持ち伝事もあつた。が、のを立てた陰に、燈臺の光をしがりてふとり蝶鳥きちやう幾帳まぶ眩ながら、男と二人むつびあふ時にも、嬉しいとは一夜も思

4、はなかつた。その內(nèi)に屋形は少しづつ、花やかな空気を加へ初めた。黒棚やも新すだれ簾たになり、召使ひの數(shù)もえたのだつた。乳母は勿論以前よりも、き活きふ殖い活と暮しを取りつた。しかし姫君はさう云ふ変化も、寂しさうに見てゐまかな賄るばかりだつた?；颏味嗓膜恳埂⒛肖蠆染皮颏撙胜?、丹波の國にあつたと云しぐれ時雨く酌ふ、気味の悪い話をした。へ下る旅人が大江山の麓に宿を借りた。いづもぢ出雲(yún)路宿の妻は丁度その夜、無事に女の子を産み落した。すると旅人

5、はの中うぶや生家から、何とも知れぬ大男が、急ぎ足に外へ出て來るのを見た。大男は唯「年は八歳、は自害」と云ひ捨てたなり、ちかへ消えてしまつめい命たちま忽どこ何処た。旅人はそれから九年目に、今度は京へ上る途中、同じ家に宿つて見た。所が実際女の子は、八つの年に変死してゐた。しかも木から落ちた拍子に、鎌をへ突き立ててゐた。――話は大體かう云ふのだつた。姫君はそれをのど喉聞いた時に、宿命のせんなさにされた。その女の子に比べれば、こおびやか脅の男を

6、頼みに暮してゐるのは、まだしも仕合せに違ひなかつた?！袱胜辘妞巳韦护胪猡悉胜??！龚D―姫君はさう思ひながら、顔だけはあでやかにほほ笑んでゐた。屋形の軒に當(dāng)つた松は、何度も雪に枝を折られた。姫君は晝は昔のやうに、琴を引いたりを打つたりした。夜は男と一つに、水鳥のすごろく雙六しとね褥池に下りる音を聞いた。それは悲しみも少いと同時に、喜びも少い朝夕だつた。が、姫君は、このい安らかさの中に、はかない満足あひかわらず不相変ものう懶を見出してゐた。